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目と耳のライディングバックナンバー

◆第409回 チェロの響きに酔う(13.Feb.2018)

 仙台フィルハーモニー管弦楽団で1999年から2012年9月末まで首席チェロ奏者をつとめていた原田哲男さんのコンサートに行ってきた(2月11日土曜日、午後3時開演。もりおか啄木・賢治青春館にて)。
 原田哲男さんは、桐朋学園大学在学中の1990年に蓼科高原音楽祭奨励賞受賞。同大学卒業後から2年間ドイツのマインツ大学音楽学部に学び、1997年からは米国ダラス市の南メソヂスト大学の奨励金を得て、同大アーティストディプロマコースに入学して研鑽を積んだ。
 共演するピアニストの木下順子さんは、なんと8歳でアメリカ・メリーランド州ユースオーケストラとモーツァルトのピアノ協奏曲を共演しているという才媛だ。東京藝術大学音楽学部を経て同大学院修士課程修了後、チューリヒ音楽大学大学院でソリストディプロマを取得。数々のコンクールで優秀な成績を収めている。現在はソリストとして、また仙台フィルハーモニー管弦楽団のヴァイオン奏者タタル・ヘンリと夫婦デュオで活動している。
 プログラムは下記の通り。
【第1部】
〈1〉バッハ:アリオーソ
〈2〉シューマン:幻想小曲集作品73
〈3〉ショパン:チェロソナタop.65
【第2部】
〈4〉カサド:無伴奏チェロ組曲
〈5〉パガニーニ:ロッシーニの主題による変奏曲
〈6〉パラディス:シシリアーノ
〈7〉カサド:親愛なる言葉
【アンコール】
〈8〉ラフマニノフ:ヴォカリーズ
 〈1〉はカンタータ第156番「わが片足すでに墓穴に入りぬ」が原曲で、この旋律はチェンバロ協奏曲第5番の第2楽章にも転用されている。チェロをこよなく愛していたシューマンの〈2〉はもともとはクラリネットとピアノための曲で、出版時にシューマンの手によってヴァイオリン用、チェロ用の編曲版も付された。
 ショパン晩年の作品である〈3〉は「ピアノの詩人」ショパンのピアノ以外の数少ない室内楽作品として知られる。長く日の目を見なかったが、20世紀も末近くになって巨匠ムスティラフ・ロストロポーヴィチによって再評価され、広く演奏されるようになった。ショパンの作品だけに、ピアノも単なる伴奏以上の役割を与えられている。
 原田さんは、青春館には何度も来ているのにグランドピアノではなく、アップライトピアノなのを失念していて、「木下さんにとっては無謀な選曲となってしまいました」と苦笑されていた。
 その木下さんがアップライトピアノとは思えないような豊かな響きを奏でた。私はピアノのことはよくわからないのだが、ピアニストによると「グランドピアノとアップライトピアノはまったく別もの」なのだというから、木下さんはまさに「弘法筆を選ばず」だ。原田さんの「ロマンチック」という形容がぴったりの演奏と相まって、天国のショパンもきっと微笑んでいたことだろう。
 私が楽しみにしていたのは、カサドの無伴奏チェロ組曲だ。カサドはカザルスに見出され(ちなみにカザルスはショパンのチェロソナタを評価せず、演奏しなかった)、その才能を伸ばすためにバルセロナ市がパリで学ぶための奨学金を与えたほど。パリではファリャやラヴェルから作曲も学び、名チェリストとしての名声に加えて優れたチェロ楽曲の作曲家としても後世に名を残すことになる。
 ご年輩のクラシックファンにとってカサドの名は、伴侶だった名ピアニスト原千恵子の名とともに懐かしいに違いない。
 チェロを知り尽くしたカサドの作品だけにヴィルトゥオージティが味わえたのはもちろんのこと、原田さんならでは「ロマンチックな響き」が存分に発揮され、聴き応えがあった。
 ちなみに、〈6〉はマリア・テレジア・パラディスというまったく知らない作曲家による作品だった。会場で配布されたプログラムノートには、「モーツァルトと同時代で、ピアニストとして活躍しました。今日では唯一『シシリアーノ』によって彼女の名を知りますが、この作品が実はアメリカのヴァイオリニスト、サミュエル・ドゥシュキン(1891~1976)によるウェーバーのヴァイオリンソナタの改作ではないか? ともいわれています。」と紹介されている。
 シシリアーナ(シチリアーノ)は8分の6拍子か8分の12拍子の古い舞曲の形式で、なぜか美しいメロディの作品が多く、盛岡で活動している長谷川恭一さんが古今のシチリアーノを集めたコンサートが印象に残っている。
〈このごろの斎藤純〉
〇スキーを40数年ぶりに再開して今年で4シーズン目になる。これまでの成果を確認する意味もあって、バッジテスト(2級)を受けてみようかなと思っている。
〇私のまわりでインフルエンザが猛威をふるっている。今のところ私は(外出後の手洗いとうがいが功を奏しているのか)無事だが、今後も気をつけたい。みなさんもどうぞご油断なく。
フリッパーズ・ギター:カメラトークを聴きながら

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